【本】半藤一利『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』

日本型リーダーはなぜ失敗するのか (文春新書)

日本型リーダーはなぜ失敗するのか (文春新書)


太平洋戦争における陸軍、海軍のリーダーシップの起源・悪弊から、歴史に学べと訴える本。


そんな起源・悪弊が端的にまとめられているのが次の記述。

日露戦争という日本近代史に燦然として輝く栄光を背負って、というよりその栄光を汚さないために、参謀まかせの「太っ腹リーダー像」が生み出された。この"威厳と人徳"の将を支えるために「参謀重視」が金科玉条の教えとなった。結果として、下剋上というよりは、「上が下に依存する」という悪い習慣が通例となる。こうなると軍司令官は参謀の「代読者」になるほかはない。「細部は参謀をして指示せしむ」とは、そもそも何ということか。これでは本当の意思決定者、ないしは決裁者がさっぱりわからなくなる。当然のことのように、机の上だけの秀才参謀たちの根拠なき自己過信、傲慢な無知、底知れぬ無責任が戦場にまかり通り、兵隊さんたちがいかに奮闘努力、獅子奮迅して戦っても、すべては空しくなるばかりなのです。≫(253頁〜254頁)

どーんと部下に任せるリーダーと、そしてそれを支える使命を負いながら、その役割上責任を負わない机上の空論に走りがちな参謀との、悪夢ともいえるコラボレーションですね。なんか、法律のことはようわからんという経営者と、それに乗じてオーバースペックな仕組みをつくって現場だけでなく収益の根幹を疲弊させる法務パーソンに似ているような。とても他人事とは思えません。


そんな感じで、リーダーシップの本と銘打ちながら、参謀の心がけや悪い参謀の例が豊富に挙げられ、法務パーソンだけでなく経営なり上司の参謀的な役割を果たす諸兄(?)に含蓄ある記載が満載な本です。


参謀の心がけが次の記述に、端的にまとめられています。

≪一番目は、指揮官の頭脳を補うことができること。具体的にはリーダーの計画立案や決断のために情報を集め分析し、公正な判断を下し、適切な助言を行うことです。指揮官のために二つも三つも作戦計画を用意し、指揮官の判断を仰ぐ。(中略)
 二番目は、部隊の末端まで方針を徹底させること、さらに各部署でうまくいっているかを確認することが参謀にとっての重要な仕事となります。つまりリーダーの命令が発せられたあと、現場にお任せというのはダメなのです。現場をすっぽかしてはいけない。
 三番目の条件は、将来の推移を察知する能力を有すること。行動開始後に、適切に統帥を補佐することも参謀の大切な役割です。≫(141頁)

簡にして要を得たまとめで、ぐうの音もでない。かくありたいものです。耳も痛い。


耳が痛いと言えば、筆者の挙げる参謀の6類型。(1)書記官型、(2)分身型、(3)独立型、(4)準指揮官型、(5)長期構想型、(6)政略担当型のうち、筆者は、(3)、(4)、(6)は問題外と言います。そんなわけで、よき参謀の進むべき道は、(1)(2)(5)なんでしょう。とはいえ、(1)(2)(5)でもそれはそれは様々な参謀さんがいらっしゃいます。この辺りの微妙なさじ加減はは実際に本書を読まれることをお勧めします。控えめに自信を持って専門的知見を活かす。まあ、そんなところでしょう。難しい。


参謀とかリーダーとか言いますが、これも相対的な話で、参謀さんでも部下がいれば、リーダーとして振る舞わなければなりません。筆者の考えるリーダーの条件は次の通り。

(1)最大の仕事は決断にあり(153頁)
(2)明確な目標を示せ(165頁)
(3)焦点に位置せよ(184頁)
(4)情報は確実に捉えよ(210頁)
(5)規格化された理論にすがるな(220頁)
(6)部下には最大限の任務の遂行を求めよ(240頁)


自分が上役に対する目線を考えるだけで、いやあリーダーって本当大変ですよね。この記述を見て思ったのは、自分が上手にリーダーになれそうなレイヤーはどこにあるかということ。上のレイヤーだから下のレイヤーだからといって、貴賤はないと思います。むしろ、自分の分に応じた地位で頑張れることが、自分にとっても組織にとってもハッピーなんだと思います。もちろん、ラクしたいから低いレイヤーでというエクスキューズにするのではなくて。


私、なんと贅沢なことに、2人も事実上の部下がいますが、この部下たち、とりあえず私が上司的な役割を果たしていることに不満はないんだろうかと常々思っています。自分が私の部下だったら嫌だもん。エラそうで腹立ちますわ。そんなわけで、リーダーはちと厳しいなあと思うけど、別に参謀道をつき進めるほど客観的な資格なりがあるわけでもなく、参謀の心得やリーダーの条件を気にしながら、自らの分にふさわしい、参謀、リーダーの調和点がみつかるのかもしれませんね。経験則的には、こんな場合、思いっきり、自分の能力のはるか先の課題を与えられることが多いですが。。。。