コンプライアンスの中核はトップの姿勢というけれど

コンプライアンスとか、内部統制とかの本で、決まって言及されるのが、トップの誠実性や倫理観こそが中核であ〜る、ってこと。


法務パーソンなら、耳にタコ、目にデジャブな記述です。仰せのことはその通りなんだけど、ひねくれ&なんちゃって法務な私は若干の違和感を禁じえません。


それは、このメッセージは、何を伝えたいのか、誰に向けて伝えているのかが必ずしも明らかではないから。


トップが、誠実性も倫理観のかけらもなく、人の話を聞かない人だったら、コンプライアンスや内部統制は機能しませんということを伝えたいのでしょうか。トップが誠実性や倫理観が素晴らしかったら、コンプライアンスや内部統制は機能しやすいことを伝えたいのでしょうか。いずれも、あまりに当たり前すぎます。


じゃあ、このメッセージは、高度な誠実性や倫理観が要求されるトップに向けたメッセージなのでしょうか。まあ、そうなんでしょうが、トップがコンプライアンスのある程度専門的な文書を読んでいる時点で、私の個人的感覚からしてありえないし、読んでいたら、誠実性や倫理観にあふれる素敵なトップであると反証を許さずに認定することを許します(笑)。ぶっちゃけ、こんなメッセージが書いてある本を読むのは、法務パーソンくらいでしょう。


要するに、当たり前のことを法務パーソン向けに書いても、仕方がないでしょうということを私は言いたい。知ってますがな。


おそらく多くの法務パーソンが抱える課題は、誠実性や倫理観があるわけでもないわけでもないトップをして、いかに手間暇お金がかかる仕組みづくりに、積極的に参加せしめるかにあると思います。もちろん、せしめたあとに、その他の役員、従業員への周知徹底というもしかすると、もっと大変な作業がまっているんですが。それは法務担当が泥臭く、気持ちを切らさずにやらざるを得ません。


そんなトップを仕組み作りに積極的に参加せしめるかで、多く使われるのが、脅しです。気が弱いトップなら良いのかもしれませんが、そんなトップの説得は容易で、法務パーソンの抱える中核的な悩みを解決するものではありません。気の強いトップだと、うるせえ貴様何様のつもりぢゃと言われますし。。。


次に多く使われるのが、短期的にはコスト要因だけど、長期的には会社の利益になるとかいうお題目。まあ、そうなんでしょうけど、法務パーソンの中核的な悩みを解決するほど、説得的なデータはないと思います。通らばリーチではないですが、儲けるには法律が定めていないグレーゾーンなのは、多くの人が指摘するところです。


コンプライアンスや内部統制の本って、こんな空虚なことばかりですよね。使えない。


そんな迷える私は、キヤノン電子の酒巻社長が仰せの、相手の力を利用した巴投げみたいな技をかけられないか、日々探求しています。

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要するに、酒巻社長は、環境に対する取り組みが法律上厳しくなったときに、その当否を問わず、環境に対する取り組みをコスト削減にリンクさせるために知恵を絞ったんです。素敵です。


ただ、感覚的には、コンプライアンスや内部統制って、短期的なコスト削減とは相反すると思います。むしろ、コストを抑えれば抑えるほど、不健全な仕組みになる可能性が高い。環境への酒巻社長の取り組みみたいな僥倖は期待できない気がします。


そんな中、私が今のところ考えているのは、一定規模以上の会社であって、かつ、セクショナリズム化が進んで情報の流れが悪くなっている会社を念頭においていますが、情報がトップへ伝わりやすい仕組みというのを苦しいながら、メリットにできないかと思っています。規模が大きくなると情報の流れは悪くなりますので、比較的汎用性の高いメリットではないかと思っています。ただ、情報を受信して、それをトップに伝える部門が、トップの太鼓持ちみたいな感じだと、仏作って魂入れずになります。そんなわけで、情報受信部門が現場から信頼されて情報が集まりやすい状況になっているという条件がつきますね。そんな部門になることを、ここ5年ほど、地道に取り組んでいるところです。


とはいえ、コンプライアンスや内部統制って、結局「黒船襲来」という外圧で整備されることがほとんどなんだと思います。現在は、さほど顕在化していなくとも、来る「黒船襲来」に備えて提案資料を準備しておき、それを寝かせながら、誠実性や倫理観という点で、可もなく不可もなくなトップをしてビビッと言わせるキャッチ―なメリットを折に触れ考えつつ、黒船襲来時に、スマートに対応するのが、さしあたりの私の目標です。