【本】孫崎亨『戦後史の正体 1945-2012』

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)

戦後の首相や外務大臣やらが、米国の国益と相反することをやると、米国が、日本の検察、マスコミ、官僚などを利用して、引きずり下ろすという営みを冷静な筆致で記載する本。高度な内容を語り口調で平易に説明しており、尖閣諸島竹島北方領土と多くの外憂を抱えている日本を憂える皆様に、お薦めします。


戦後の日本は米国のなすがままになっててみたいな類書はたくさんあり、「陰謀史観かのう」とやや食傷気味だったのですが、類書とは一線を画す何かを感じる本です。何かをうまく表現できないのが口惜しいです。


言葉は不適切かもしれませんが、この本を読んで、日本は米国の属国みたいだなあと思いました。米国には敵わないとは思いますし、不必要に敵対する必要はないと思いますが、それでも釈然としない気持ちはなお残ります。


筆者が処方せんとして提供するのは、第一次吉田茂内閣で、大蔵大臣をつとめた石橋湛山(のち首相)の言動です。石橋は当時の国家予算の2割から3割をしめていたGHQの駐留経費を削減しようとして、公職追放されましたが、そのとき次のように言ったそうです。


≪「あとに続いて出てくる大蔵大臣が、おれと同じような態度をとることだな。そうするとまた追放になるかもしれないが、まあ、それを二、三年つづければ、GHQ当局もいつかは反省するだろう」≫(371頁)


属国みたいとはいえ、完全な支配下にあるわけではないのですから、本当に日本の国益に反することであれば、こういったブレない気構えを持ちたいものです。


この本を読んで思い出したのが、次の本の次の記述。

人間の叡智 (文春新書 869)

人間の叡智 (文春新書 869)


≪そして日本という国家は、帝国主義時代のアナロジーでいえば、かつてのオーストリアハンガリー二重帝国のハンガリーの位置を占めればいいのです。この場合、アメリカがオーストリアです。ハンガリーがどうやって力をつけて二重帝国までもっていったのか。その歴史を学ぶ必要があります。≫(同書192頁)


凄いです。この雄大な構想。私なんぞは、古代ローマで、ローマの属国になっていた国などを思い出していましたが、貧相な構想ですね。世界史の基礎知識をおさらいして、オーストリアハンガリー二重帝国について学んでみたくなりました。