【雑誌】一冊の本 2012年10月号 「ラスプーチンかく語りき88」

「一冊の本」という月刊誌があります。魚住昭氏と佐藤優氏の対談「ラスプーチンかく語りき」の連載が掲載されており、佐藤優ファンには外せない雑誌です。その他読ませる連載もありながら、1冊100円は安い!(ただし、定期購読が必要)原研哉氏の装丁も素敵です。朝日出版の思い入れをひしひしと感じます。ステマではありませんが、この雑誌はおすすめです。


脱線しますが「ラスプーチンかく語りき」は本当に良い対談です。魚住氏の鋭い問題提起に、佐藤氏が縦横無尽に分析する知的好奇心を刺激する対談です。現在、この対談は、3冊の本になっていますが、本になるまで多少時間がかかるストレスに、東日本大震災後我慢できなくなり、定期購読してまいました。佐藤優氏の公刊されている本をおそらく8割くらい読んでいますが、この対談をまとめた本は、佐藤氏の著作の中で1番おすすめです。佐藤氏のほかの著作を読むと、この対談で語られていることがベースになっていることが多いからです。

テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2

テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2

政権交代という幻想 ラスプーチンかく語りき3

政権交代という幻想 ラスプーチンかく語りき3


さて、「一冊の本」2012年10月号の「ラスプーチンかく語りき」のテーマは、日中、日韓領土問題と初音ミクです。かなり意味不明ですね(笑)。ビビッときたら是非、定期購読を。初音ミクについて言及するとネタバレになってしまうので、少し日中領土問題について言及。


中国の反日デモは、中国の政権交代の直前に野田政権が尖閣諸島の所有者から同島を購入したことがきっかけと理解しており、タイミングが悪かったなあと、個人的には思っていました。


ところが、「一冊の本」2012年10月号の「ラスプーチンかく語りき」では、私の個人的な印象とは、違う角度でこの問題を論じています。

尖閣諸島の問題ですが、国が地権者から魚釣島、南小島、北小島(中略)買い上げることで落ち着きましたね。ひとまずよかったなと思っています。石原慎太郎東京都知事はこれらの三島を都で購入し、漁船の避難施設や漁業無線の中継基地などの港湾整備を構成していましたね。都が尖閣諸島を所有することになったら、(中略)この海域で武力衝突が起きる可能性がかなり現実味を帯びてくるだろうなと思っていました≫(同雑誌42頁〔魚住昭発言〕)


≪武力衝突の危険は依然ありますが、東京都が尖閣諸島を購入した場合と比べれば、低くなりました≫(同雑誌42頁〔佐藤優発言〕)

この言及が正しいとすれば、中国の反日デモの火種は、東京都の尖閣諸島購入ということになりますね。おそらく、石原氏の尖閣諸島購入の動きは、管政権のときの対応がきっかけだったと思われ、東京都が購入という報道を見たときに、ええやないかいと思った自分が少し恥ずかしくなりました。


さて、中国は核兵器を持っていますので、武力衝突自体はやめた方がいいんでないかいと、思うのですが、武力衝突を危惧する理由についての佐藤氏の言及に、さらに驚かされました。

≪私が武力衝突を危惧するのは、局地戦ならば日本が圧勝するからです。日本の海上自衛隊と中国海軍とでは装備に雲泥の差があります≫(同雑誌42頁〔佐藤優発言〕)


≪圧勝したら、日本は国際社会からどう見られますか。日本国憲法上では軍隊を持っていない。戦争を禁じているから宣戦布告もしないし、終戦処理もしない。事実としての戦闘だけを行う。これ、「事変」です。満州事変です。(中略)国際社会は日本が帝国主義的な膨張を仕掛けていると見なしますよ。≫(同雑誌42〜43頁〔佐藤優発言〕)


≪国際社会は日本封じ込めに動くでしょう。その意味でも、尖閣諸島への対処に関して、野田政権は冴えていたと思います。≫(同雑誌43頁〔佐藤優発言〕)


局地戦では日本は中国に圧勝するという発言に驚きました。中国の空母が脅威という報道を目にしますが、佐藤氏が別の著書で述べていたように、空母の運用に成功した国は、米国と戦前の日本の二国だけということを考えれば、局地戦で日本が中国に圧勝するという結果も妥当な核心を有しているかもと思った次第。しかも、話はずれますが、事実としての戦闘を隣国と行うことは、現行の日本国憲法との関係で、イラク自衛隊を派遣するよりも大きな問題を孕むことであるということも理解できました。


別に民主党びいきではありませんし、政治的メッセージをこのブロクで伝えるつもりもないですが、野田政権は、報道されているほど悪くはないと思います。むしろ、日本という国家が東日本大震災以後、危機的状態にあることを強く意識しながら、さほど強い地盤を持っていないにもかかわらず、過去の民主党の首相と異なり官僚を上手に使いつつ、本当によくやってらっしゃると思うんですけどね。この対談が正確ならば、日本の国のことを考えてらっしゃるのは、言うまでもありませんね。まあ、50年後100年後に今の時代を振り返ってみたときの評価と、今の時代のさなかで生きている人の評価は違うのかもしれませんが。